個人事業主になってこれから従業員を雇う予定です。個人事業の場合では従業員を雇う場合に必要な手続きってありますか?従業員を雇い実際に働いてもらうまでの流れが知りたいです。
こんな疑問にお答えします。本記事では、個人事業主が従業員を雇い実際に働いてもらうまでに必要な書類や届け出について5ステップでまとめています。
従業員を雇う人数によって手続きも変わりますので、これから従業員を増やして事業を拡大していきたい方は是非記事をご覧になってくださいね。
2020年11月に23年間勤めた建設会社から独立して個人事業主になった僕が、従業員を雇い実際に働いてもらうまでにするべきことについて詳しく解説していきます。
【 この記事を書いている僕の紹介 】
- けんちゃん@個人事業主
- 2020年に独立した個人事業主
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個人事業主が従業員を雇う場合の社会保険の手続き
個人事業主が従業員を雇う場合の社会保険の手続きは2つのパターンがあります。これは、あくまで従業員の数。個人事業主は含めませんのでお間違えなく。
順番に解説しますね。
従業員が5人以下の場合
- 雇用保険
- 国保組合( 任意 )
上記の通りです。
雇用保険制度は、労働者が失業した場合などに必要な給付を行い、労働者の生活及び雇用の安定を図るとともに再就職の援助を行うことなどを目的とした雇用に関する総合的な機能をもった制度です。
厚生労働省ホームページから一部引用
雇用保険の加入が必要な場合とは従業員を31日以上雇用する見込みがあり、週20時間以上勤務する従業員は雇用保険への加入が義務付けられています。
平成30年度の雇用保険料率は事業主負担が0.6%、従業員負担が0.3%です。
国民健康保険の場合は個人で加入申請しますが、国保組合の場合は個人事業主が申請する場合があります。
例えば、建設業が加入申請できる国保組合等がありますので、そちらを利用する場合は国保組合に直接問い合わせするようにしましょう。
従業員が4人以下の場合で社会保険に加入したい場合
従業員が4人以下の場合でも社会保険に加入することを任意適用と言いますが、この場合、従業員の半数以上の同意が必要になります。
任意適用の場合では社会保険に加入するには、 従業員の半数以上が社会保険の加入に同意することが、加入の必須条件となります。 こちらも事業主本人は除いた数です。
例えば、従業員が4人の場合で、3人が社会保険の加入に同意したとします。 この場合は社会保険に加入できます。 なお半数以上なので、従業員が4人であれば、2人の同意を得られれば加入できます。
従業員の半数以上の同意が得られれば、" 任意適用同意書"と"任意適用申請書"などを事業所を管轄する年金事務所(社会保険事務所)に提出し、社会保険事務局長から認可がおりれば社会保険の加入ができます。
従業員が5人以上の場合
- 雇用保険
- 協会けんぽ
- 厚生年金保険
上記の3つです。
雇用している従業員が常時5人以上になった場合は、健康保険と厚生年金保険の強制適用事業所となり、手続きが必要です。
"健康保険・厚生年金保険・新規適用届"と"健康保険・厚生年金保険・被保険者資格取得届"を従業員が5人以上になった日から5日以内に所轄の年金事務所へ提出します。その他にも、従業員に被扶養者がいる場合には"健康保険被扶養者(異動)届"を5日以内に社会保険事務所へ提出しなければなりません。
ちなみに農業や漁業、サービス業の一部は対象となりません。
雇用保険は従業員が5人以下の場合と同じ。
協会けんぽとは、会社員やその家族が加入する被用者保険の一つで、主に中小企業が加入している社会保険です。保険証に全国健康保険組合と書かれていれば協会けんぽです。
厚生年金保険に関しては下記の通りです。
次の事業所は、厚生年金保険及び健康保険の加入が法律で義務づけられています。ご自分の事業所が厚生年金保険及び健康保険(協会けんぽ)の加入の手続をとらずに未加入となっている場合につきましては、「新規適用届」の提出をお願いします。
(1)法人事業所で常時従業員(事業主のみの場合を含む)を使用するもの
(2)常時5人以上の従業員が働いている事務所、工場、商店等の個人事業所※ただし、5人以上の個人事業所であってもサービス業の一部(クリーニング業、飲食店、ビル清掃業等)や農業、漁業等は、その限りではありません。
日本年金機構公式ホームぺージより引用
社会保険は事業所単位での加入
社会保険の加入は事業所単位です。社会保険適用事業所として認められると、従業員全員に加入義務が発生します。 半数以上の同意となっても加入は事業所単位なので、反対した従業員も加入することになります。
事業主本人は社会保険に加入できません。 個人事業主は被用者保険・厚生年金ではなく、国民健康保険または国保組合・国民年金の加入となります。
医療保険 | 年金保険 | |
個人事業主 | 国民健康保険(いわゆる国保) 所得に応じた金額を支払う |
国民年金全員一律 月16,000円程 |
従業員 | 被用者保険(いわゆる健康保険) 所得に応じた金額を支払う |
厚生年金所得に応じた金額を支払う |
個人事業主が従業員を雇う手続き5ステップ
- 労働条件の通知
- 労働保険の手続き
- ハローワークで雇用保険の手続き
- 税務署への届け出
- 源泉徴収の準備
個人事業主が従業員を雇う手続きは上記の通り。順番に解説していきます。
労働条件の通知
人を雇う際に必要になるのが労働条件の通知です。労働条件とはその名の通り、このような条件で働いてくださいという事項です。
労働条件の中でも、特に重要なものは、書面で通知する必要があります。具体的には、次の5つの項目は、必ず書面で通知しなければなりません。
- 無期契約か有期契約かといった労働契約の期間に関すること
- 就業の場所や従業すべき業務に関すること
- 始業及び終業の時刻、残業の有無、休憩時間、休日、休暇など労働時間に関すること
- 給与の計算や支払いの方法や支払日に関すること
- 退職手続きに関すること
通知する方法については、一般的に労働条件通知書という書類を作成して、雇用する従業員に渡します。また、上記の通知する条件のほか、働く上で守るべきルールを含めて、雇用契約書という形で書類を取り交わすこともあります。
また、この労働条件通知書と関係がある重要な書類があります。それが"時間外労働・休日労働に関する協定書いわゆる36(さぶろく)協定"です。一日8時間を超えて働いてもらう場合などに必要です。
この書類は労働基準監督署に提出して初めて効力が発生します。作成するだけでなく、必ず労働基準監督署に提出しましょう。
書式に決まりはありませんが、厚生労働省が公開している労働条件通知書を使えば漏れがないので安心です。
なお、雇用契約に用いた書類をどこかへ提出する必要はありません。ただし、その従業員の退職から3年間は保管しておく義務があります。
従業員が10人以下なら就業規則は不要
就業規則とは、いわば職場独自のルールブックのようなもの。10人以上の従業員を雇う場合は、労働基準監督署へ提出しなくてはなりません。とはいえ、後々の揉め事を防止する意味もあるので、従業員が9人以下であっても、作成しておくと良いですね。
労働保険の手続き
労働保険とは、従業員のために雇う側に加入義務がある公的な保険であり、労災保険と雇用保険の2つを合わせたものをいいます。
まず労災保険とは、従業員が仕事中や通勤中にけがをした場合などに、従業員が診療費や休んでいる間の給料の保障などを受けることができます。
労災保険は、アルバイトであろうと正社員であろうと、雇う側が加入しなければならない保険です。どれだけ勤務時間が短くても、仕事中にけがをすることはあり得るからです。
雇用保険とは、従業員が退職した後に失業保険などを受けるための保険です。次の要件を満たす人を雇用する場合には、加入する必要があります。
- 1週間に20時間以上働く予定であること
- 31日以上雇用する予定であること
上記の要件は国籍を問いません。従業員を一人でも雇えば労災保険、上記の要件を満たす人を雇えば雇用保険に加入する義務があるということ。
ただし、学生(夜間や通信、定時制以外)については、雇用保険の適用除外となります。アルバイトで大学生や高校生を雇って、20時間以上シフトに入ってもらったとしても、基本的に雇用保険に加入させる必要はないということです。
ただし、飲食店などのサービス業では個人事業主である限り、雇う人数にかかわらず健康保険や厚生年金保険への加入義務はありません。
労基署に提出する書類
労働基準監督署に提出する書類は、
労働保険保険関係成立届(期限:雇った日から10日以内) 事業所が初めて労働者を雇った際に提出するものです。
詳しい記入の方法はこちらのサイトをご覧ください。
労働保険概算保険料申告書(期限:雇った日から50日以内) 詳細は次章で解説しますが、納付する費用はこの概算保険料になります。
労働保険保険関係成立届の添付書類は下記の通りです。
事業形態を確認するもの 自宅で事業を行なっている場合は住民票
自宅以外で事務所を借りている場合は、事務所賃貸契約書の写しになります。
ハローワークで雇用保険の手続き
雇用保険の手続きは労働基準監督署に保険関係成立届を提出した後に行います。
作成する書類は下記の通りです。
適用事業所設置届(期限:雇ってから10日以内)
事業所が初めて雇用保険加入対象者を雇った際に提出するものです。
被保険者資格取得届(期限:雇った月の翌月10日)
加入対象者1人につき1枚提出します。
添付書類は下記書類の写しとなります。
- 事業形態を確認するもの(上記の*と同じ)
- 労働保険保険関係成立届の控え
前述の労基署に提出したものです。 - 開業届の控え
開業時に税務署に提出したものになります。 - 賃金台帳
- 労働者名簿
- 出勤簿もしくはタイムカード
雇用保険の対象者が存在し、勤務の実態があって給与を支払っているかを確認するために提出します。 - 雇用契約書(パートタイマーの場合)
週20時間以上・雇用期間31日以上といった加入要件の確認のためです。
下記は添付しませんが、被保険者資格取得届で従業員の番号を記入するのに確認が必要です。
- 雇用保険被保険者証
前職で雇用保険に加入していた中途採用者の「被保険者番号」を確認のためです。 - 写真無しマイナンバー通知カード +(免許証などの)本人確認書類
もしくは 写真つきマイナンバーカード
「マイナンバー」確認のためで、中途・新人を問いません。 - 2回目以降の加入手続きにおいては、上記の書類のみ提出(もしくは確認)だけで良くなります。
まずは、雇用保険適用事業所設置届を雇用した日の翌日から10日以内に所轄のハローワークへ提出します。そして、各従業員の雇用保険資格を申請するために雇用保険被保険者資格取得届を雇用した日の翌月10日までに所轄のハローワークへ提出すれば完了です。(※1)
※1 農林業や建設業は労働保険の二元適用事業となるので、雇用保険等の手続きが異なります。
労働保険と雇用保険の提出期限まとめ
提出書類 | 提出期限 | |
労働基準監督署 | 保険関係成立届 | 雇用の翌日から10日以内 |
概算保険料申告書 | 雇用の翌日から50日以内 | |
ハローワーク | 雇用保険適用事業所設置届 | 雇用の翌日から10日以内 |
雇用保険被保険者資格取得届 | 雇用日の翌月10日まで |
税務署への届け出
個人事業主が従業員へ給与の支払いを行う場合は、雇用してから1カ月以内に給与支払事務所等の開設届出書を所轄税務署に提出しなければなりません。初めて従業員を雇った日から1ヶ月以内に、所轄の税務署へ提出しましょう。
また、青色申告をしている個人事業主は配偶者や親族を雇用する場合に青色事業専従者給与に関する届出書を併せて提出することで、他の従業員と同様に配偶者や親族へ支払った給与を経費として計上することが可能です。
ただし、生計が同一であること、15歳以上であること、一年の半分以上を事業に従事していること、などの条件が付きます。この届出書は経費として計上しようとする年の3月15日までに所轄税務署に提出しなければなりません。
ちなみに、個人事業の新規開業と同時に従業員を雇う場合は、開業届にその旨を記載しておけばOKです。その場合は給与支払事務所等の開設届出書を提出する必要はありません。
源泉徴収の準備
事業主は、従業員の給与から税金を天引きして、従業員の代わりに税務署へ納付しなくてはなりません。これを源泉徴収と呼びます。従業員を雇ったら、正確な源泉徴収を行うために給与所得者の扶養控除等(異動)申告書を記入してもらいましょう。
この申告書は、毎年記入してもらうものです。その年の最初の給料日までに記入してもらい、保管しておくというのが原則です。どこかへ提出する必要はありません。もし税務署などから求められたら提出することになっています。
用紙に記入してもらった内容で、その従業員の配偶者や扶養親族について、正確に把握します。 その情報を「源泉徴収税額表」に照らし合わせて、その従業員の給与からいくら源泉徴収すればよいのかを知ることになります。
源泉徴収の手間を減らす申請
従業員の給与から源泉徴収した税金は、原則として毎月納付しなくてはなりません。しかし源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書を提出すれば、年2回でまとめて納付できるようになります。
法定三帳簿をそろえる
- 労働者名簿
- 賃金台帳
- 出勤簿
法定三帳簿とは上記の3種類のこと。
労働基準法では、労働者を雇用する企業に対し、労働者名簿や賃金台帳、出勤簿等を整備し、保存することを義務づけています。
これらは法定三帳簿とも呼ばれ、適切に整備していない場合は処罰の対象となります。また、労働者の適切な労務管理のためにも、法定三帳簿をきちんと整備しておくことが必要です。
それぞれについて深掘りしていきます。
労働者名簿
- 労働者の氏名
- 生年月日
- 履歴
- 性別
- 住所
- 従事する業務の種類
- 雇入の年月日
- 退職年月日およびその事由(退職の事由が解雇の場合はその理由を含む)
- 死亡の年月日およびその原因
労働者名簿に記入すべき事項は、労働基準法第107条および労働基準法施行規則第53条により、上記のとおり定められています。
ただし、従業員が30人未満の事業場の場合、従事する業務の種類の記入は不要です。
労働者名簿の保存期間および起算日
労働者名簿は、労働者の死亡、退職または解雇の日から3年間保存することが必要です。
労働者名簿は、パートやアルバイトを含め、日雇い労働者を除いたすべての労働者について作成することが必要であるため、それぞれの従業員の住所や生年月日など必要事項について、きちんと情報を集めるようにしましょう。
また、労働者名簿の記入事項に変更がある場合はすみやかに書き換えることが義務づけられているため、従業員に住所変更や氏名変更などがあった場合はすみやかに届出させるようにすることが重要です。
労働者名簿の保存期間は労働者の退職等の日から3年間と定められているので、労働者名簿には退職年月日を忘れずに記入するようにしましょう。
賃金台帳
-
- 氏名
- 性別
- 賃金計算期間
- 労働日数
- 労働時間数
- 時間外労働、休日労働および深夜労働の時間数
- 基本給、手当その他賃金の種類ごとにその金額
- 労使協定により賃金の一部を控除した場合はその金額
賃金台帳に記入すべき事項は、労働基準法第108条および労働基準法施行規則第54条により、上記の通り。
管理監督者については労働時間数や時間外労働、休日労働の時間数を記入しなくてよいとされていますが、深夜労働の時間数については記入することが必要です。
賃金台帳の保存期間および起算日
賃金台帳は、最後に記入された日から3年間保存することが必要です。
賃金台帳は、賃金の支払いのたびに必ず記入しなければなりません。賃金は毎月1回以上支払う必要があることから、賃金台帳も毎月1回以上記入することが必要です。
また、賃金台帳の記入にあたっては労働時間数を正確に管理することが必要不可欠であり、時間外労働や休日労動、深夜労動の時間数もそれぞれ明確にしなくてはなりません。
それぞれの労動時間数を正確に管理し、賃金台帳に記入するようにしましょう。
出勤簿
- 氏名
- 出勤日
- 始業・終業時刻
- 休憩時間
- 出勤簿等の保存期間および起算日
出勤簿等には、労働時間を正確に把握できるような情報を記入しておくことが必要です。そのため、上記の事項については必ず記入しておくようにしましょう。
出勤簿等は、労働者の最後の出勤日から3年間保存することが必要です。
出勤簿等の作成にあたっては、出勤日だけでなく、毎日の始業時刻や終業時刻についてもタイムカードなどを活用して正確に記入することが必要です。
まとめ
- 労働条件の通知
- 労働保険の手続き
- ハローワークで雇用保険の手続き
- 税務署への届け出
- 源泉徴収の準備
個人事業主が従業員を雇う手続きは上記の通り。その他にも従業員が4人以下の場合は国民健康保険でも良いが、5人以上になると厚生年金保険と協会けんぽ等の社会保険の加入が必要となります。
それ以外にも事業の形態によっても必要な手続きが変わりますので、自分の事業に必要な手続きを調べたうえで従業員を雇うようにしましょう。
事業の拡大にには従業員の存在はなくてはならないもの。より良い事業展開をしていくためにも必要な手続きの仕方を学んでおきましょう。